เข้าสู่ระบบ先ほどから何も言葉を発しようとしない龍のことが気になり、私はそっと視線を動かした。
すると、悲しげに揺れる瞳とぶつかる。龍は切なげな表情で私を見つめていた。
「お嬢……」
その声は、いつになく沈んでいて、力がない。
私は改めて龍に向き直り、彼の手をぎゅっと握りしめた。
そして、動揺を隠し切れずにいるその瞳を、まっすぐに見据える。「龍、嫌な思いをさせてしまってごめんなさい……。
でも、会うだけだから。ちゃんとお断りするから。 おじいちゃんの願いを、叶えてあげたいの……お願い」そう言って、握った手に力を込めた。
それに反応するように、龍の瞳が細かく揺れる。龍は、私の祖父への想いを理解してくれている。
きっと彼もまた、祖父の願いを叶えてあげたいという気持ちは同じなのだ。
けれど――
龍の瞳は激しく揺らめき続けている。 彼の心の中で、いくつもの想いがせめぎ合っているのがわかった。「龍……私はあなたが好き。愛してる。
だから大丈夫。私を信じて」ありったけの想いを込めて、私はもう一度、龍を見つめた。
「……流華、さん」
龍が、久しぶりに名を呼んでくれる。
心臓が大きく跳ね、全身がふわっとあたたかくなる。
彼に名前を呼ばれると、どうしてこんなに嬉しいんだろう。愛おしくて、胸がいっぱいになった。
しばし見つめ合ううちに、龍の硬かった表情がふっと緩んでいくのがわかった。
「……わかりました。俺は、流華さんを信じています。
だから、大丈夫」想いを隠すように、彼は静かに微笑んだ。
でも、隠しきれないもどかしさが、笑顔の奥ににじんでいる。「龍……ありがとうっ」
自分の気持ちを抑え、私の想いを尊重してくれた彼が愛おしくて。
体が勝手に動いていた。そっと踵を上げ、龍へと近づく。
二人の唇が触れそうになった――そのとき。
「うおっほん!」
祖父の大きな咳払いが聞こえた。
ピタリと動きを止めた私たち。
……ああ、そういえば、おじいちゃん居たんだ。
すっかり二人の世界に入り込んでいて、完全に忘れていた。慌てて、くっついていた体を離す。
離れた途端、消えたぬくもりに、ほんの少しだけ寂しさをおぼえた。
「流華、龍……すまんな。
わしのために、辛い思いをさせて」祖父は、いつになくしおらしい姿で言葉をかけてくる。
肩を小さくすぼめ、視線は下を向いたまま。その姿は、すっかり元気がなく、どこか憔悴しているようにも見えた。
それを見た龍が、慌てたように首を横に振る。
「いえ、とんでもないです! 親父には感謝しているんです。
こんな俺を拾い、家族として迎え入れてくださって……それだけでも十分すぎるくらいなのに。 お嬢とのことも認めてくださって。 ――俺は、いつか必ず恩返しがしたいと思っていました」龍は、祖父を励ますように必死に笑顔を見せる。
その顔に、祖父はゆるやかに目尻を下げた。「ほっほ……龍は本当に律儀な奴じゃ。
わしはおまえが好きじゃよ。おまえだからこそ、流華のことも認めたんじゃ。 おまえは、わしの息子だ」「親父……」
二人が、熱い抱擁を交わす。
その光景に、私は胸がジーンと熱くなった。
いいなあ、こういう師弟愛みたいな絆……としみじみ感じる。けれど。
「と、話もまとまったことだし。
じゃあ明日、流華のお見合い相手来るから」けろっとした表情で、祖父がさらっと言い放った。
そして気づけば、私はベッドに押し倒されていた。 龍の唇がいったん離れ、私を見下ろす。 その目は、欲望と愛情がないまぜになって、熱を孕んでいる。「……龍、好き」 私は手を伸ばし、彼の頬にそっと触れる。 その指先が誘うように動いてしまう。「流華、愛してる」 再び口づけると、今度は唇が首筋へ、鎖骨へと降りていく。 優しく、でも確かにそこに愛を刻むように。 彼の手が、肌に触れるたび、心が震え、喜びを感じる。 あたたかく、やさしく、そして確かな愛が、全身に伝わってくる。 私はその愛を、全身で受け止めていった。 お互いの呼吸が、だんだんと熱を帯び、交じり合っていく。「流華……」「龍……」 見つめ合い、もう一度想いを確かめ合った、そのとき―― 「流華ー、どこじゃー?」 階下から祖父の声が聞こえた。 二人とも、まるで時間が止まったように固まった。 そして、目が合った瞬間、同時に吹き出してしまう。 笑いながらも、どちらともなく名残惜しそうに視線を交わす。 よくもまあ、毎回邪魔が入るものだ。 しかもこのタイミング……。 おじいちゃん、わざとじゃないでしょうね? 慌てて脱いでいた服を拾い集めながら、私は小さくため息をついた。 龍も苦笑しながら、いそいそとシャツのボタンを留めていく。「……まあ、これからいくらでもチャンスはあるよね? ずっと一緒にいるんだし」 私は龍の腕にぴたっと寄り添いながら、上目遣いで微笑んだ。 龍は一瞬、ぽかんとした顔をして、それから顔を真っ赤にして頷いた。「は、はい! が、頑張ります!」 頑張るって……真面目すぎ。 でも、そこが龍らしくて、好き。 もう一度、見つめ合う。 自然と私たちは、軽くキスを交わした。 龍の温もりを感じながら、ふと手元に目を落とす。 指に光るリングが目に入った。 それを見つめながら、そっと目を細めた。 ☆ ☆ ☆ 私には、大切な指輪がふたつある。 ひとつは、ヘンリーからもらった指輪。 もうひとつは、龍からもらった指輪。 どちらも、大切な私の宝物。 どちらが欠けても、きっと今の私はいない。 今の幸せもなかった。 たくさんの想いが繋いでくれた、この幸せ。 私はそのすべてに感謝しながら、これからも歩いていく
名残惜しそうに、私たちはそっと身体を離し、見つめ合った。 プロポーズがうまくいって、安心したのか―― 龍は穏やかな瞳で、愛おしそうに私を見つめている。「……ありがとうございます。断られたら、どうしようかと思ってました」 ほっとしたように息をつく。 その様子があまりに素直すぎて、思わずくすっと笑ってしまう。「断るわけないでしょ?」「でも……今回、いろいろありましたし。 俺の過去のこととか……。 お嬢に嫌われたら、って。もう、気が気じゃなかったです」 龍はそう言うと、少し情けないような顔で私を見た。「何言ってるの? 私は龍が好きだし、昔のことなんて気にするわけないでしょ」 胸を張る。 当然でしょ、という顔で。「だって、私は如月組組長の孫なのよ? 暴走族だったぐらい、何とも思わない」 その言葉に、龍は一瞬目を丸くした。 それから、嬉しさと困惑が入り混じったような、複雑な表情をする。「……そうですよね。 でも、お嬢は昔から、組のことをあまり良く思っていないのかと……。 だから、そういうものが嫌いなんじゃないかって」 ああ、きっとそれは――。 たしかに昔は、組の家に生まれたことに悩んだ時期もあった。 家系のことで周りから異質な目を向けられ、苦しかったあの頃を思い出す。 でも、今は違う。「それは、私の心が弱かっただけ。 今は、組のことも、みんなのことも、大好きだよ。 大切な人たちが、たくさんいるから……その人たちを大切にしようって決めたの」 そう言って、私はそっと龍に寄り添った。 龍は驚いたような顔をして、それから優しく肩を抱き寄せてくれる。「お嬢は……ほんと、いい女ですね。惚れ直しました」「ふふっ。でしょ?」 顔を近づけて微笑み合い、自然と二人の距離が縮まる。 そのとき、龍がポケットから、さっきの指輪を取り出した。「お嬢、手を」 その一言に、心臓がトクンと鳴った。 私はおとなしく左手を差し出す。 龍の手が私の指をそっととらえ、薬指にリングをはめていく。 リングはぴたりとおさまり、淡い光を放つ。「……きれい……」 思わずつぶやくと、「流華さん」 名前を呼ばれ、顔を向けた瞬間――龍が口づけてきた。 驚いたけれど、嬉しい気持ちが勝った。 私は目を閉じて素直にその
澄んだ瞳が、わずかに熱を帯びて潤んでいる。 そこから彼の想いが伝わってくる。 私は目を逸らすことができなかった。 そんな目で見ないで。 心臓がもたないよっ。 まったく、もう…… でも、まさかそんな昔から想ってくれていたなんて。 嬉しい。 すごく、嬉しい――けど。 なに? なんなの? このドラマチックな展開は! 胸がいっぱいになる。 顔が火照って熱い……。「組に入ってから、俺は親父に頼み込んで、お嬢に仕えさせていただくことになりました。 それからは……本当に幸せな日々でした。 だって、大好きな人のそばにずっといられるんですから」 その目はまるで、私しか映していないようだった。 熱を帯びた視線が、ずっと私に注がれ続けている。 息をするのも忘れそう。 観念したように龍を見返した。 ……そのとき、龍がそっとポケットに手を入れる。 ごそごそと探ったあと、その手を私の前にそっと差し出した。 彼の手の上には、白く小さな箱。 こ、これって!? 私は息を呑み、大きな目で龍を見つめる。 龍は頬を赤らめ、静かに頷いた。 そっと箱が開かれる。 そこには、ひとつのリング。 中央に小さなダイヤモンドが光り輝いていた。「龍っ……これっ……」 息が詰まり、うまく言葉が出てこない。 龍は一度深呼吸してから、真剣な眼差しを向けた。「流華さん――俺は、あなたが好きです。 世界中の誰よりも、あなたのことを愛しています」 一泊おいて、龍は決意のこもった声で言葉を紡いだ。「結婚、してくれませんか。 あなたと生涯を共にできる喜びを……どうか、俺にください」 そう言うと、龍は息を詰めるように黙り込んだ。 私の返事を待つように。 こ、これは……プロポーズ!?
そんなこと、あったような、なかったような……。 何年も前のことだから、記憶はあやふやだ。 というか、似たようなことは何度もあったから、龍が言っているのが「どの時」のことなのか、よくわからなかった。「なんと、その少女は――見事に男子高校生三人を華麗に倒しました」 龍は懐かしそうに目を細めながら、静かに語る。「俺の目は、一瞬でその少女に釘付けになりました。 風のように舞い、まるで踊るように戦う姿……思わず、見惚れてしまったんです。 きっとそのときには、もう、あなたの虜になっていたんでしょうね」 その口調は穏やかで、でも、どこか熱を帯びている。 目の前にいるのはいつもの龍のはずなのに。 まるで別人みたい。 たぶん、昔のことを思い出しているせいかもしれない。 私の知らない龍が、そこにはいるような気がして。 でも、龍が十八歳のときって、私は十歳。 ……そんな頃から、私のことを? なんだか不思議で。 でも、嬉しくて。 胸の奥がじんわりと熱くなった。「それから、俺はその少女のことを調べ上げました」 龍はまた、昔に想いを馳せるように遠くを見つめる。「如月組の組長――如月大吾の孫だと知った瞬間、俺は決めたんです。 族を抜け、この人たちと生きていこうと。 そのときの衝動は……今でもうまく説明できません。ただ、どうしようもなく突き動かされた」 彼は静かに笑った。 ちょっと照れてたように。「突然、組に入れてくれと親父に頭を下げたときは、そりゃあ驚かれました。 でも……なぜか親父は、すんなり俺を受け入れてくれたんです」 そのときのことを思い出しているのか、龍の顔は少年のように無邪気だった。「普通ならありえない話です。 どこの馬の骨ともわからない若造を、簡単に受け入れるなんて」 龍は優しい声で続けた。「あとで理由を聞いたら、『だって、龍、めち
私は自室で、龍を待っていた。 さっき「昔の話を聞かせて」と頼んだとき、龍は数秒間、固まったままだった。 そして、ゆっくりとこう答えたのだ。「……わかりました。お嬢は自分の部屋で待っていてください。すぐに行きますから」 そう言って、龍は自分の部屋に戻っていった。 その背中はどこか重たく、表情も乗り気とは言いがたかった。 ……そんなに昔の話をするのが嫌なのだろうか? あるいは、私が暴走族に嫌悪感を持つと思っているのかな。 もやもやと考えながら、私も自室に戻った。 そして今、龍待ち状態である。「はあー……」 私は大きく息を吐いて、ベッドの上にごろんと寝転んだ。 その瞬間、ふいに思い出してしまう。 この前、ここで私と龍は…… はっとし、体を起こす。 そのタイミングで、コンコン、とドアがノックされた。「は、はい!」 返事をしながら、胸が高鳴る。 龍と二人きり……自分の部屋。 ただそれだけの状況なのに、鼓動がやけに早い。 だって、あのときと同じ。 いや、まさか龍もそんなふうに意識してるなんてことは。 ……考えすぎだよね? とにかく、変なふうに思われないようにしないと。 こんな気持ちがバレたら、超絶恥ずかしい! 「落ち着け、私」って、自分に言い聞かせながら、そっと息を吐いた。 その瞬間――扉が開いた。 ゆっくりと龍が入ってくる。 目が合った瞬間、彼はふっと口元を緩め、笑った。「お待たせしました。……隣、いいですか?」 そう言って、私の隣を指差す。 ベッドの上を。「えっ!」 思わず声がうわずった。 龍はきょとんとした顔で首をかしげる。 しまった。 あんまり挙動不審だとダメだよね……!「ど、どう
すると、ずっと黙っていた龍が口を開く。「何にせよ、お嬢がおまえを好きになることは絶対にない。あきらめろ。 そして、中村透真に体を返せ」 真顔で淡々と告げる龍に、ヘンリーはあっかんべーをした。「なんだよ、龍。流華を独り占めしちゃってさ。 今回だって流華のこと、僕いっぱい支えたんだからね。流華が傷ついて寂しそうなとき傍にいたんだ。ね、流華」 ヘンリーが私に甘えるような態度と視線を向けてくる。「え? まあ、ヘンリーには感謝してるよ。いつも助けてくれて……。 貴子と同じくらい大切」 その言葉に、ヘンリーは眉を寄せ納得していない様子を見せる。「それって、親友ってこと?」「まあ、そうなるかな」 私が頷くと、ヘンリーはしょんぼりと肩を落とした。「だよね、流華は龍がいいんだもんね。僕の入る隙なんてないよね……」 急に激しく落ち込むヘンリーのことが可哀そうに思え、励まそうとした。「ねえ、ヘンリー……」「隙あり!」 ヘンリーが突然私の頬にキスをする。 不意打ちだったので、避けられなかった。 急いで距離を取る。「へへっ」 ヘンリーはニコニコと満足そうに笑っている。 そのとき、辺りの空気が一変した。 龍から発せられるオーラが、不穏で邪悪ものへと変わっていくのがわかった。 おそるおそる龍へと視線を向けた。 閻魔大王のような表情の龍が、ヘンリーを冷ややかな目で見据えている。 状況を察したヘンリーの顔が、みるみる青ざめていった。「りゅ、龍! 落ち着いて。ジョークだよ、ほら、いつものことでしょ?」 ふざけて笑い飛ばそうとするヘンリーだったが、龍の怒りは収まる気配がない。「貴様……」 龍がゆっくりとヘンリーに歩み寄る。「ご、ごめんなさーい!」 やばい空気を察知したヘンリーは、急いでその場から逃走する。
「眠れない!」 頑張って眠ろうとした。 しかし、どうしても先ほどのキスを思い出してしまい、眠りにつくことができずにいた。 だって、私にとってあれは人生初のキス、ファーストキスだった! しかも相手はタイムスリップしてきた異国の王子って、どんなとんでも話なの? それに、なんだかんだで嫌じゃなったし……というか私も望んでいた? あー! 自分の気持ちがわかんない! 私は頭を抱えると、枕に顔を埋めうめいた。 あのあと、龍はロボットのように動き出したかと思うと、淡々とヘンリ
私はヘンリーを見つめ、ぽつりとつぶやいた。「しばらく……この家にいる?」 「うん! 流華、ありがとう!」 満面の笑みを浮かべたヘンリーが、勢いよく私に抱きついてきた。 お風呂上がりの温かな体温がじんわり伝わってくる。 祖父に抱きしめられて以来の、久しぶりの人肌の感触。 心臓が、ドクンと跳ねた。 こんなに人のぬくもりって、気持ちよかったっけ? ヘンリーの腕の中が居心地よすぎて、私は不覚にも、ずっとこのままでもいいかも……なんて思ってしまう。 ふいに、顔が熱くなっていくのを感じた。「お嬢……もう……俺は、無理です」 「え? ちょ、龍っ」 慌てて龍の方を見ようとするけれ
「僕の名前は、ヘンリー・エドワード・ローレンス。ヘンリーと呼んで」 彼は可愛い微笑みを向けながら、さらりとそう言ってきた。 は? やっぱりこの人、おかしい。どこかで頭でも打ったのかもしれない。 いや、そもそも風呂から現れた時点で、人間かどうかも怪しい。 宇宙人? でも見た目は完全に地球人。 ……っていうか、どこからどう見ても外国人だけど。 ああもう、わけがわからない! 私の頭の中はプチパニックだった。 落ち着け落ち着け、と呪文のように唱えながら、私はなんとか笑顔を作った。「うん、ヘンリー。あなたはなんでお風呂から出てきたの?」 まずは、そこを確認しないと始まらない。「僕
その日は、祖父がちょうど留守だった。 祖父は根っからの温泉好きで、月に一度はどこかの温泉へ二泊三日の旅に出る。 風呂の中から人が出てきたなんて話、いくら懐の深い祖父でも、心臓に悪いだろう。 今日がその“温泉の日”で、本当に良かった。あとで落ち着いて、ゆっくり説明できる。 ……とはいえ。 龍が用意した浴衣に身を包み、ふかふかの布団で気持ちよさそうに眠る謎の男。 その寝顔を前に、私はなんとも言えない気持ちになっていた。 改めて見つめると、やけに整った顔立ちだ。 まるで絵に描いたような美少年。 普段見慣れているのはいかつい極道たちばかりだから、余計にそう感じるのかもしれな