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【第2部】 第9話 横暴だ!ちゃめっけ祖父①

last update Last Updated: 2025-09-07 10:00:07

 先ほどから何も言葉を発しようとしない龍のことが気になり、私はそっと視線を動かした。

 すると、悲しげに揺れる瞳とぶつかる。

 龍は切なげな表情で私を見つめていた。

「お嬢……」

 その声は、いつになく沈んでいて、力がない。

 私は改めて龍に向き直り、彼の手をぎゅっと握りしめた。

 そして、動揺を隠し切れずにいるその瞳を、まっすぐに見据える。

「龍、嫌な思いをさせてしまってごめんなさい……。

 でも、会うだけだから。ちゃんとお断りするから。

 おじいちゃんの願いを、叶えてあげたいの……お願い」

 そう言って、握った手に力を込めた。

 それに反応するように、龍の瞳が細かく揺れる。

 龍は、私の祖父への想いを理解してくれている。

 きっと彼もまた、祖父の願いを叶えてあげたいという気持ちは同じなのだ。

 けれど――

 龍の瞳は激しく揺らめき続けている。

 彼の心の中で、いくつもの想いがせめぎ合っているのがわかった。

「龍……私はあなたが好き。愛してる。

 だから大丈夫。私を信じて」

 ありったけの想いを込めて、私はもう一度、龍を見つめた。

「……流華、さん」

 龍が、久しぶりに名を呼んでくれる。

 心臓が大きく跳ね、全身がふわっとあたたかくなる。

 彼に名前を呼ばれると、どうしてこんなに嬉しいんだろう。

 愛おしくて、胸がいっぱいになった。

 しばし見つめ合ううちに、龍の硬かった表情がふっと緩んでいくのがわかった。

「……わかりました。俺は、流華さんを信じています。

 だから、大丈夫」

 想いを隠すように、彼は静かに微笑んだ。

 でも、隠しきれないもどかしさが、笑顔の奥ににじんでいる。

「龍……ありがとうっ」

 自分の気持ちを抑え、私の想いを尊重してくれた彼が愛おしくて。

 体が勝手に動いていた。

 そっと踵を上げ、龍へと近づく。

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